器を選ぶときに見ている五つのこと
同じ献立で器だけを替えた二枚の写真を並べたのは、料理の腕ではなく器の寸法と質感で見え方が決まる、という話をしたかったからです。替える前の写真は、器そのものが悪いわけではありません。すべて同じ大きさで、縁がまっすぐで、色が明るい。この三つが重なると、料理が皿の中で浮いて見えます。
一、料理の一・五倍の大きさを選ぶ
もっとも効くのが余白です。なますを大さじ二杯のせるなら、直径九センチの小鉢でちょうど中央が埋まり、外側に指一本分の余白が残ります。ここが埋まると「詰めた」印象になり、空きすぎると寂しくなる。迷ったら、盛る量の一・五倍が入る大きさを選ぶと外しません。⑥のギヤマン三寸小鉢を九センチにしているのはこの理由です。
二、高台があるかを見る
高台は器の底の輪状の脚です。これがあると器がわずかに持ち上がり、卓上で影ができて輪郭が立ちます。小鉢のように小さいものは、高台がないと盆の平面に沈んで見えません。⑫の粉引小鉢は直径十センチほどですが、高台があるので冷奴ひと切れでも存在が消えません。
三、縁の形で輪郭を締める
放射状のしのぎ、花びら、十草。縁に模様や凹凸のある器は、縁そのものが細かい影を作ります。焼き魚のように面が単調なものを受けると、この影が料理の輪郭を締めてくれる。逆に、和えものや煮物のように形の崩れやすい副菜は、花びら状に立ち上がった深さのある器の方が収まります。②の華蝶扇大皿と⑤のリンカ四寸鉢は、同じ花のモチーフでも前者が平皿、後者が深鉢で、役割が違います。
四、色は料理の反対側ではなく土の側から選ぶ
色相環で反対の色を選ぶ、という考え方は洋食器では有効ですが、和食では土や釉薬の色に寄せる方が失敗しません。黒釉や紺の釉薬は、かぼちゃや青菜の緑を沈ませず引き締めます。⑤の黒いリンカ四寸鉢にかぼちゃの煮物を合わせているのはこの理由で、明るい単色の器に置くと同じ料理でも色が浮いて見えます。
五、大きさを揃えず、ずらす
同じ大きさの器を並べると、視線が止まる場所がなくなります。四十五センチのトレーに対して、二十二センチの主菜皿、十三センチの汁椀、十センチ前後の小鉢、三.五センチの箸置きと段差をつけると、大きいものから小さいものへ自然に目が動く。替える前の写真がのっぺりして見えるのは、器がほぼ同寸で並んでいるからです。
盆の中の置き方
一汁三菜の配置には決まりがあります。手前左に飯、手前右に汁、奥に主菜、その脇に副菜。③のご飯茶碗を手前左、④の汁椀を手前右に置き、奥の中央に②の主菜皿を据えて、まわりへ副菜の小鉢を散らす形にしています。
置くときに意識しているのは二つだけです。ひとつは三角形。飯・汁・主菜という大きい器三つが正三角形に近い位置に来ると、まわりの小鉢がどこにあっても安定します。もうひとつは高低差で、奥を高く手前を低く。奥の主菜皿に高さのある盛りつけをすると、真上から見ても手前から見ても奥行きが出ます。
主菜の手前、盆の中央よりやや空けておくのがコツです。②の主菜皿を中心に据えるのは、ここに視線を集めてしまえば、まわりの小鉢が多少ばらついても全体がまとまって見えるからです。
盛りつけの順番
冷めやすいものを後に回します。ご飯をよそって、焼き魚を皮目が上になるように盛りつけ、副菜は箸で高さを出しながら最後に。⑦の卵焼き用の小皿は、切ってから時間が経つと断面が乾くので、盛る直前に切って断面を見せるように置きます。
副菜は平らに広げず、中央に集めて高さを作る。⑧の小鉢に盛るお浸しのような細長いものは、箸で持ち上げて向きを揃えると、量が同じでも倍近く豊かに見えます。⑨の小皿に盛る漬物や酢の物のような濃い色の一点は、料理の中心からわずかにずらして置くと、写真にしたときに構図が締まります。
最初に揃える三点
十二点を一度に買う必要はありません。効果の大きい順に三点だけ挙げると、トレー、主菜用の皿、ご飯茶碗です。
トレーがいちばん効きます。①のナチュラル木製トレーのように四十五×三十三センチの縁付きを一枚敷くだけで、器がばらばらでもひとつの食事に見えます。次が主菜用の二十二センチ前後の皿。毎日使うので、質感のあるものを一枚持つと食卓の印象が変わります。三点目に③のしのぎ茶碗のような主役の器。小鉢は手持ちのもので代用が効くので、後回しでかまいません。
扱いと手入れ
粉引は白い化粧土をかけた器で、吸水性があります。⑫の粉引小鉢のように使い始めに米の研ぎ汁で煮る目止めをしておくと、染みが入りにくくなります。使う前に水に通しておくのも有効です。細かいひび(貫入)は不良ではなく、使うほど色が入って景色になります。
⑤の黒いリンカ鉢や⑥の紺のギヤマン小鉢のような色釉のものは、油染みが目立ちにくい代わりに、長時間の漬け置きで匂いを拾います。洗って早めに乾かすだけで十分です。
⑩の校倉箸のような漆仕上げの箸は、食洗機と長時間の浸水を避けます。洗ったらすぐ拭く。漆は使い込むほど艶が出ます。①の木製トレーも同じで、水気を残さないことだけ守れば十年使えます。
大きさの目安
| 大きさ | 向く料理 |
|---|---|
| 三.五センチ前後 | 箸置きなど、卓上のほんの一点 |
| 九〜十センチ前後 | なます、和えもの、香の物、副菜の小鉢もの |
| 十三センチ前後 | 汁椀。具だくさんの味噌汁も収まる深さ |
| 二十二センチ前後 | 焼き魚一尾分、主菜 |
| 四十五×三十三センチ | 一人分のトレー。器四つから六つが収まる |
よくある失敗
皿が小さすぎることが最も多い。次に、同じ色と同じ大きさで揃えてしまうこと。三つ目は、料理を器の真ん中に平らに置いてしまうことです。高さと余白と段差、この三つだけ意識すれば、器の値段にかかわらず食卓は変わります。











